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名古屋地方裁判所 平成2年(行ク)8号 決定 1990年10月16日

申立人(本案原告) 岡田鐵雄

<ほか八名>

右申立人ら訴訟代理人弁護士 織田幸二

相手方(本案被告) 大府市

右代表者市長 鷹羽操

右訴訟代理人弁護士 鈴木匡

同 大場民男

同 吉田徹

同 鈴木雅雄

同 中村貴之

主文

本件申立てを却下する。

理由

一  申立人ら(本案の原告ら。以下「申立人ら」という。)の本件申立ての趣旨及び理由並びに相手方(本案の被告。以下「相手方」という。)の意見に対する反論は、別紙一、二に記載のとおりであり、相手方の答弁及び意見は別紙三に記載のとおりである。

二  提出済み文書の存在について

申立人らが提出を求める文書は、本件区画整理事業におけるすべての換地についての各筆各権利別清算金明細書(以下「本件文書」という。)であるところ、一件記録によると、本件文書のうち申立人らに対する換地処分に係る各筆各権利別清算金明細書については、相手方から書証ないし答弁書添付の別紙の形で既に提出されていることが認められるから、本件申立てのうち、右提出済みの文書の提出を求める部分については、理由がない。

三  民訴法三一二条各号該当性について

そこで、本件文書のうち、右提出済みの文書を除いた、申立人ら以外の換地処分を受けた者に対する各筆各権利清算金明細書(以下「本件未提出文書」という。)について、相手方が文書提出義務を負うか否かについて判断する。

1  民訴法三一二条一号該当性について

本件未提出文書が、民訴法三一二条一号にいう文書(以下「一号文書」という。)に該当するか否かについて、まず判断するに、同条号にいう、「訴訟ニ於イテ引用シタ」とは、当該文書の存在が、当事者の主張ないしは書証等において、当事者の主張する事実を裏付けるものとして言及されていることが必要であると解されるところ、一件記録によれば、本件において、相手方がその主張において本件未提出文書の存在に言及したことはなく、また、書証等において、本件未提出文書の存在が相手方主張に係る主要事実ないし間接事実を裏付けるものとして言及されていないことが明らかである。

もっとも、申立人は相手方が本件未提出文書から抜粋した内容を一覧表にして作成した文書である乙第一二、第一三号証を提出したから、これをもって、相手方は本件未提出文書を訴訟において引用した旨主張する。しかしながら、右各乙号証中には何ら本件未提出文書から引用されたことを示す記載はなく、相手方の主張中にもそのような記載はないのであるから、右各乙号証の提出をもって、相手方が本件未提出文書を引用したとは認められない。

よって、本件未提出文書は、一号文書に該当しない。

2  民訴法三一二条二号該当性について

次に、本件未提出文書が民訴法三一二条二号にいう文書(以下「二号文書」という。)に該当するか否かについて判断するに、同条号は、文書所持人が挙証者に対し、契約ないし法令に基づいて私法上引渡し又は閲覧に供する義務を負担している場合において、当該文書所持人に文書提出義務を課するものであると解されるところ、一件記録によれば、本件未提出文書について、申立人らが相手方に対し、かかる私法上の引渡しないし閲覧請求権を有していないことは明らかである。

もっとも、申立人らは、本件未提出文書が二号文書に該当する根拠として、土地区画整理法八四条二項による閲覧請求権を有していることを主張するが、このような公法上の閲覧請求権を有していることが民訴法三一二条二号にいう「閲覧ヲ求ムルコトヲ得ルトキ」に該当しないことは、同条号と同趣旨の規定であった大正一五年法律第六一号による改正前民訴法旧三三六条一号中には、民法の規定に従い証書の引渡し等ができるときとの旨の文言があったこと、挙証者が公法上の閲覧請求権を有する場合には、自らそれを行使すれば足りるのであるから、文書提出命令を求めることができないとしても、格別挙証者に実質的不利益を与えるものではないこと、文書送付嘱託について定める民訴法三一九条但書の規定は、当事者が文書の所持人に対し法令上文書の交付を求めることができる場合には、送付嘱託の申立てをすることができないとしていることなどから明らかであり、申立人らの主張は採用できない。

よって、本件未提出文書は二号文書にも該当しない。

3  民訴法三一二条三号該当性について

次に、本件文書が民訴法三一二条三号にいう文書(以下「三号文書」という。)に該当するか否かについて判断するに、同号前文にいう「挙証者ノ利益ノ為ニ作成セラレ」た文書とは、その文言上から、当該文書が直接挙証者の地位、権利ないし権限を証明し又は基礎づけるものであって、かつ、当該文書がそのことを目的として作成されたものであることを要するものと解されるところ、一件記録によれば、本件未提出文書は、相手方から換地処分を受けた者のうち申立人ら以外の者に対して支払われた清算金額等を記載した文書であることが窺われるので、これらの記載は、申立人らの地位、権利ないし権限を証明し又は基礎づけるものではなく、また、本件未提出文書がそれを目的として作成された文書でないことも明らかである。

また、同号後文にいう「挙証者ト文書ノ所持者トノ間ノ法律関係ニ付作成セラレタ」文書とは、挙証者と文書所持者との間の法律関係自体を記載した文書及びその法律関係の構成要件事実の全部又は一部を記載した文書であることを要するものと解されるところ、申立人ら以外の者に支払われた清算金の金額等の記載は、申立人らと相手方との間の法律関係、すなわち、申立人らに対する換地処分についての構成要件事実に該当するものとは認められない。

よって、本件未提出文書は、三号文書にも該当しない。

四  結論

以上の次第であって、本件申立ては理由がないので却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 浦野雄幸 裁判官 杉原則彦 岩倉広修)

<以下省略>

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